トピックス

酒精強化ワインとは?ソムリエが分かりやすく解説

食前酒や食後酒として楽しまれている「酒精強化ワイン」と呼ばれるワインは、発酵過程でアルコール(主にブランデーなど)を添加してアルコール度数を高めたワインのことです。通常のワインに比べてアルコール度数が高く、甘みや風味が凝縮されているため、食前・食後酒はもちろん、料理のソースにアクセントを加えるために利用されることもあります。
通常のワイン製造方法とはまた違った「酒精強化ワイン」を解説していきましょう。


  目次
  酒精強化ワインって?ワインとの違いは?
  酒精強化ワインの産地と種類
   スペイン:シェリー(Sherry)
   ・ポルトガル:ポルト(D.O.C.Port)
   ポルトガル:マデイラ(D.O.C Madeira)
   その他の酒精強化ワイン
  酒精強化ワインの味わい、楽しみ方

酒精強化ワインって?ワインとの違いは?

酒精強化ワインとは、ワインの発酵過程でブランデーなどの蒸留酒を添加してアルコール度数を高めたワインのことです。

糖分がアルコールに変わる前に強制的に発酵を止めるので、甘みを残したまま自然とアルコール度数も高くなります。

酒精強化ワインは別名「フォーティファイドワイン(fortified wine)」とも言われています。アルコール度数は通常のワインは10~15%ほどですが、酒精強化ワインは15~22%前後と高めです。

酒精強化ワインというと「甘口タイプ」を想像する方が多くいらっしゃいますが、中にはワインの糖分を減らしてからアルコールを添加して辛口に仕上げるタイプも多くあります。

食前酒には辛口タイプを、食後酒には甘口タイプを飲むのが一般的です。

酒精強化ワインの産地と種類

酒精強化ワインは、
スペインの「シェリー」ポルトガルの「ポルト」、「マデイラ」を総称して
「世界三大酒精強化ワイン」
またはこれにイタリアの「マルサーラ」を加えると
「世界四大酒精強化ワイン」と呼ばれます。

今回は代表的なシェリー、ポルト、マデイラワインの3つをおさえましょう。

スペイン:シェリー(Sherry)


シェリーは白ブドウを原料にした白ワインをベースにつくられる酒精強化ワインです。正式名称は「Jerez-Xérès-Sherry(へレス・ケレス・シェリー)」。シェリーに使用されるブドウ品種はパロミノ種、ペドロ・ヒメネス種、モスカテル種(ミュスカ)の3種類のみが認められています。

シェリーの産地は、ヘレス・デ・ラ・フロンテラサンルーカル・デ・バラメダエル・プエルト・デ・サンタマリアを結ぶ三角地帯の中で造られたものだけを「シェリー」と名乗ることができます。

シェリーはアルコール度数や使われるぶどう品種、醸造方法によって極甘口タイプから辛口タイプまで幅広い違いがあるのが特徴です。

辛口シェリーのタイプはフィノマンサニーリャアモンティリャードオロロソパロ・コルタドと種類が分かれています。

シェリーのタイプ

辛口シェリー

フロールと呼ばれる「産膜酵母」(発酵を終えた後も生き続ける酵母がワインの表面に厚い白い膜ができワインの酸化を防ぐ効果のある蓋となる)の下で樽熟成されるものと、されないものがあります。

  • フィノ(Fino):フロール有り。パロミノ種から造られるキリッとしたドライな辛口タイプ。淡い麦わら色。ナッツや青リンゴのような香り。アルコール度数は15~17%。
  • マンサニーリャ(Manzanilla):フロール有り。サンルカール・デ・バラメダで熟成される塩気を感じる辛口タイプ。アルコール度数は15~17%。
  • アモンティリャード(Amontillado):フロールは途中まで有り、途中から無し。フィノを熟成させた琥珀色のシェリー。アーモンドやナッツ類のアロマ。
    アルコール度数は16~22%。
  • オロロソ(Oloroso):フロール無し。濃い琥珀色で非常にアロマティックな芳香。アルコール度数は17~22%。
  • パロ・コルタド(Palo Cortado):フロールは途中まで有り、途中から無し。フィノ用に酒精強化されたもの内、フロールの状態が変化したものに再度酒精強化してアルコール度数を17~22%以上に上げたもの。アモンティリャードの香りでオロロソの風味の辛口。人為的に造れないため、珍しいシェリーのタイプ。
甘口シェリー

パロミノ種より糖度の高いペドロ・ヒメネスまたはモスカテルを収穫後、1~2週間天日干しで水分を蒸発させ糖度を上げてから醸造します。それをアルコール発酵させ、糖度が残った状態で酒精強化することでブドウ果汁の甘さが残るのです。これを辛口シェリーと同様に同じ方式で樽熟成されます。

ポルトガル:ポルト(D.O.C.Port)


ポルトは、黒ブドウを原料にした「レッド・ポルト」と白ぶどうを原料にした「ホワイト・ポルト」に大別されます。日本にはじめてもたらされたのがポルト(諸説あり)とも言われ、最も馴染みのある酒精強化ワインかもしれません。

レッド・ポルトは「ルビータイプ」と「トウニータイプ」「ホワイトタイプ」「ロゼタイプ」の4つに分類されます。

最低アルコール度数は「ルビータイプ」と「トウニータイプ」は19~22%、
と「ホワイトタイプ」は16.5%、「ロゼタイプ」は19%程度となります。

ルビータイプ
平均3年間の樽熟成の後に瓶詰めされる若いタイプ。ワインの色が鮮やかな宝石のルビー色をしているため、ルビーと呼ばれます。少し冷やして食後酒として楽しめます。

その年に収穫された中でも特に優れたブドウから造られ、長期間の熟成を経てリリースされる「ヴィンテージ・ポルト」や4~6年樽熟成させた「レイト・ボトルド・ヴィンテージ・ポルト(L.B.V)」は高貴で余韻の長いポートワインになります。

トウニータイプ
Tawny(黄褐色)から来ており、小さい樽で寝かせて酸化が進み、黄褐色になります。

熟成年数表記トウニー・ポルトは長い年月樽熟成させた結果、色素が沈着してトゥニー色になったもの。平均熟成年数で10年、20年、30年、40年のものがあります。濾過してから瓶詰するため、デカンタ―ジュの必要はありません。

ホワイト・ポルトは低温でレッド・ポルトよりも長く発酵させています。辛口につくられることが多く、比較的食前酒として楽しまれています。

・ホワイトタイプ
白ブドウを原料とし、低温発酵で通常のポルトよりも長く発酵してからグレープ・スピリッツを添加し、最低アルコール度数を16.5%以上にした比較的辛口タイプのライト・ドライ・ホワイト・ポルト(Light Dry White Port)。ハチミツやドライフルーツの風味を持つものまで、様々なスタイルがあります。

・ロゼタイプ
また、近年では黒ブドウを原料とし、低温で短期間のスキンコンタクトによってタンニンの抽出を抑えながらフレッシュで早飲みタイプの「ロゼ・ポルト」も人気です。

ポルトガル:マデイラ(D.O.C Madeira)


マデイラはポルトガル領のマデイラ島で造られる酒精強化ワインです。地名がそのまま名称になっています。
倉庫内に太陽熱を取り込んで加熱する「カンテイロ(間接加熱)」、樽ごと乾燥炉に入れて人工的に加熱処理をする「エストゥファ(直接加熱)」など、独自の製法で加熱熟成をしています
マデイラは甘口ワインのみ造られています。「辛口」と表記される事もありますが、甘口の中では控えめの甘さという意味です。

マデイラの品種

  • セルシアル(Sercial):冷涼な気候を好む。辛口タイプ。アルコール発酵終了直前に酒精強化。
  • ヴェルデーリョ(Verdelho):冷涼な気候を好む。中辛口タイプ。アルコール発酵後半に酒精強化
  • ボアル(Boal):暖かい気候を好む。中甘口タイプ。アルコール発酵途中に酒精強化。
  • マルヴァジア(Malvasia)=英 マルムジー(Malmsey):海岸沿いの暑い地域を好む。甘口タイプ。アルコール発酵初期に酒精強化。
  • ティンタ・ネグラ(Tinta Negra):一般消費用としてマデイラ島の全域で栽培されている。マデイラで唯一黒ブドウの使用が認められている。

その他の酒精強化ワイン


その他、イタリアのマルサーラ、フランスのVDN(ヴァン・ド・ナチュール)、VDL(ヴァン・ド・リキュール)などがあります。簡単に押さえておきましょう。

マルサーラ(Marsala) イタリアのシチリア島で造られる酒精強化ワイン。カタラット種・グリッロ種を主体にして造られるのが一般的。1773年にイギリス人ジョン・ウッドハウスがアルコール補強し、マルサーラの人気は世界的に広がりました。

V.D.N(ヴァン・ドゥー・ナチュレル)
ブドウ果汁の発酵中にアルコールを添加し発酵を停止(ミュタージュ)させることで、多くの天然の糖分がワイン中に残り甘口になったワイン。

VDL(ヴァン・ド・リキュール)未発酵のブドウ果汁にブランデーやアルコールを添加し、樽またはタンクで熟成させる甘口ワイン。

Rancio(ランシオ)VDLを樽で酸化熟成させたもの。ワインは太陽にさらしたり、半地下など、温度が大きく変動する環境で自然の温度変化を利用して長期熟成(数年~数十年)される。このブーケを特にランシオ香といい、テイスティングの表現としても使われる。

酒精強化ワインの味わい、楽しみ方

酒精強化ワインは、主に辛口か甘口かによって楽しみ方が変わります。それぞれの飲み方や利用シーンを見ていきましょう。

辛口タイプ


主にシェリーやホワイト・ポルトなど、辛口タイプの場合、食前酒として楽しまれています。また、アルコール度数を控えめにしたい方にはトニックウォーターや炭酸と割ったカクテルもおすすめです。シェリートニックやホワイトポルトソーダなどのカクテルは、レモンを絞るとさっぱりした飲み口で、食中酒としても楽しめるのが魅力です。

冷やしたフィノやホワイト・ポルトは、魚介類やチーズとの相性も良いので、食中酒としても活躍します。

甘口タイプ


ルビーポルトやマデイラなど、糖度が高くコクのある甘みを感じられる酒精強化ワインは、主に食後酒として楽しまれます。

濃厚なバスクチーズケーキやカカオ分の強いダークチョコレートとの相性は抜群。「バニラアイスのポルトがけ」といったオシャレな楽しみ方もあります。

またポルトやマデイラはお肉料理のソースに使われることもあり、食後酒として飲む以外にも汎用性があります。

酒精強化ワインはブドウ品種に加え、添加されるアルコールの種類や熟成方法や辛口から甘口と様々なタイプを楽しむことができます。

関連記事