ソムリエ一次試験対策

先生、質問です! #07 ブドウの病害、フィロキセラと接ぎ木

ソムリエ・ワインエキスパート試験対策の疑問にお答え!

この記事では、ヴィノテラスワインスクール ソムリエ・ワインエキスパート一次試験対策講座の授業で受講生の皆さまから実際に出た質問に、アシスタント講師のマイ先生がお答えします!

  目次
  
◆ はじめに
  ◆ ブドウの病虫害、生理障害
  ◆ フィロキセラの猛威と対策
  ◆ 台木に使われるブドウの種
  ◆ まとめ

・・・

はじめに

ワインの原料は、皆さんご存じのとおり「ブドウ」です。

ワイン造りは、畑でのブドウ栽培から始まります。ブドウは春先になると芽を出し、葉っぱが伸びて、やがて花が咲いて実が生ります。
その実が色づいて成熟すると秋には収穫、という流れになりますが、もちろん毎年すべてがうまくいくわけではありません。
人間が体調を崩すのと同じように、ブドウも周囲の環境に影響を受けて病気や発育不良を起こすことがあります。

今日は、そんなブドウの病害や生理障害について解説します。

中でも、ワイン造りに大きな影響を与えた害虫「フィロキセラ」について、その被害と人々が行ってきた対応について一緒に見ていきましょう!

ブドウの病虫害、生理障害

ブドウの生育を脅かす要因として下記の3つが挙げられます。

カビ・バクテリア(細菌)・ウイルスによる病気
害虫による病気
天候不順による発育不良(生理障害

それぞれブドウにどんなことを引き起こすのでしょうか?

カビ・バクテリア(細菌)・ウイルスによる病気

  • カビによる病気

 ・ベト病 英:Downy Mildew 仏:Mildiou

湿度の高い環境で繁殖します。茎や葉に黄色や褐色の斑点が現れたり、実が白や黄色に変色して、腐って樹から落ちたりしてしまいます。実際に感染したところがベトベトになることから、ベト病と呼ばれています。

このベト病を防ぐ農薬として知られているのが、ボルドー液です。

フランス・ボルドー大学の教授が19世紀後半に開発したためにボルドー液と呼ばれていて、ベト病以外にも、農作物の様々な病害を予防する農薬として現在も世界中で使われています。ボルドー液の原料は、硫酸銅と生石灰。この二つを水に溶かして造ります。

ボルドー液に使われる硫酸銅は劇物に指定されていますが、ボルドー液自体の安全性は高く、このように作物の表面にすこし残っている程度の量では人体への危険性はありません。

ウドンコ病 英:Powdery mildew 仏:Oïdium

生育中のブドウ果粒が白い粉状の胞子に覆われて、ブドウの果皮の成長が妨げられる一方、果肉は成長を続けるため果皮が裂けてしまい、果粒がミイラ化もしくは腐ってしまう原因となります。

開花の際に硫黄を含んだ農薬を散布することや、ベンレート(ベノミル)剤による殺菌をすることにより防ぐことができます。

灰色カビ病 英:Gray mold 仏:Pourriture grise

原因となるのは「ボトリティス・シネレア」という菌です。この菌はブドウに二つの全く異なる影響を与えます。

まず一つ目は「灰色カビ病」。ブドウの花穂(かすい:花の集まった塊のこと)、葉、果房に灰色のカビが生え、まだ熟していない果粒に発生した場合には果粒を腐らせてしまいます。病害の防除にはイプロジオン水和液という農薬の散布が有効です。

そして二つ目は「貴腐化」。完全に熟した果粒にボトリティス・シネレアが付くと、果粒の表面を保護している蝋質(ろうしつ:果皮の表面を覆っているもの)を溶かして、ブドウの果皮に無数の細かい穴をあけます。その穴から果肉の水分が蒸発してしまうと、エキス分だけが残った干しブドウ状のブドウが樹に残ります。この状態を「貴腐」といい、極甘口の高級ワインの原料になります。

晩腐病 英:Ripe rot

収穫期にブドウを襲う病害です。果実を腐らせたりミイラ化させたりしながら、急速に拡大します。日本のブドウ病害で最も多いのがこの晩腐病です。

対処策として、ブドウの休眠期(収穫が終わってから翌年の芽吹きまでの冬の間)にベンレート(ベノミル)剤を散布することなどが挙げられます。

ESCA(エスカ)

最も古くからあるブドウの病気といわれています。感染すると生育期間中の葉の色が変わり、枯れてしまいます。

防除策として行われていた亜ヒ酸ナトリウムの散布が人体に有害だとして、フランスでは2001年から禁止されたため、それ以降有効な解決策が見つかっていません。世界中に被害が広がりつつある病気です。

Excoriose エスコリオーズ

萌芽してから数週間で増殖し、枝がかさぶたのようになってしまう病気です。感染した枝を冬の間に燃やし、胞子を残さないことが防除策となります。

  • バクテリア(細菌)による病気

・根頭癌種(こんとうがんしゅ)病 Crown gall

図1:ブドウ根頭がんしゅ病の症状(赤い矢印が形成されたこぶ)
「JAcom 農業協同組合新聞」https://www.jacom.or.jp/saibai/news/2024/01/240125-71971.phpより

樹についた傷から土壌の最近が感染することで、こぶ状の塊をつくります。冬の寒さが厳しい地域に多く見られる病気です。

ピアス病 Pierce’s Disease

シャープシューター(ヨコバイという虫の仲間)が媒介する病気です。生育期間中に葉が葉緑素を失い、数年のうちに樹が枯死します。北米の広範囲にみられる病気で、殺虫剤を散布することで防除します。

Flavescence dorée フラヴサンス・ドレ

北アメリカから伝播したヨコバイの一種が媒介する病気で、ブドウの房が十分に育たず木が徐々に弱って、数年で枯死してしまいます。こちらも殺虫剤を散布することで防ぎます。

  • ウイルスによる病気

※ウイルスとカビの違いは、簡単にいうと大きさです。(カビの方が大きく、ウイルスは小さい)
またウイルスは植物や動物の細胞の中に入り込んで増殖するため、治療が難しいといわれます。

ブドウのウイルス病は約50種類以上が確認されています。
対処策として、ウイルスフリーのブドウ苗を育成することがあげられます。

代表的なウイルス病
・ブドウ・Leaf roll(葉巻病)
・Fleck

害虫による病気

・フィロキセラ(Phylloxera)

北米大陸原産の体長約1㎜の昆虫です。

19世紀中頃アメリカから輸入されたブドウの苗木にフィロキセラが付着していたことから、ヨーロッパに伝播しました。

ブドウの根や葉に寄生して樹液を吸い、数年かけて枯死させてしまいます。

対処策は、フィロキセラに耐性のある北米系の種を台木とした接木苗を作ることです。

◆ 天候不順による発育不良(生理障害

天候や栄養状態、栽培管理が適切でない場合などに起こる発育不良のことを、ブドウの生理障害と呼びます。

花振い(はなぶるい)、花流れ(はなながれ) 英:Coulure 仏:Coulure

ブドウの花が咲く時期に気温が低かったり、雨が多かったりすると、受粉がうまくいかないことがあります。

受粉しないということは実が生らないということ、つまり秋に収穫できるブドウが少なくなり、ワインが造れなくなってしまいます。

このように受粉がうまくいかず収穫量が少なくなってしまう現象を「花振い」と呼びます。

ミルランダージュ 仏:Millerandage

花粉による受精を経ない単為結実(種子なし果実)が多く発生し、肥大せず小粒のまま果実になった状態を指します。

※単為結実

花粉やめしべなど何らかの異常により受粉できないことや、花の咲く時期に低温であることが原因で、種のない果実が育つことをいいます。

これは自然に起こることもありますが、ジベレリンという成長ホルモンのひとつを使って種なしブドウを作るなど、人為的に起こすこともできます。

フィロキセラの猛威と対策

ブドウの病虫害の中でも、ワイン造りに大きなインパクトを与えたフィロキセラ。その被害の経緯と対策について見ていきましょう。

19世紀後半、試験的にアメリカ大陸からイギリスのキュー・ガーデン(王立植物園)を通じてヨーロッパに持ち込まれたブドウ樹にフィロキセラが付着していて、瞬く間にヨーロッパ全域に広がりました

1㎜ほどのこの小さな害虫はヨーロッパ各地に根付いてきたブドウ樹の根に寄生して樹液を吸い、次々とブドウ樹を枯死に追いやっていきました。

しかし当時の人々はフィロキセラの存在を知らなかったので、原因不明の根が腐る病によってブドウ樹がどんどん枯れていくのをただ見守ることしかできませんでした。

そして19世紀の終わりには、ヨーロッパ全体の約7割ものブドウ畑が壊滅し、ワイン産業は危機的状況に陥りました。

そんな中、この謎の病気の原因がフィロキセラという昆虫であることが判明しました。フィロキセラの成虫の中でも羽を持つものがあちこちに飛び回ってブドウ樹に無数の卵を産み付け、ふ化した幼虫たちは地中に潜って根から樹液を吸い取りながら成長します。根を侵されたブドウ樹は発育不良をおこし、やがて枯死してしまう……このような仕組みが徐々に明らかになっていきました。

昆虫による被害であれば、殺虫剤で駆除すればよいのではないか?
そう考えて強力な農薬を散布するなどあらゆる手段を講じましたが、思うような成果を上げることができませんでした。

さまざまな調査の結果、「フィロキセラの故郷であるアメリカでは、なぜブドウ樹がフィロキセラの被害を受けていないのか?」という疑問にたどり着き、そこからアメリカのブドウはフィロキセラに耐性があることがわかりました。

そしてついに、アメリカの昆虫学者チャールズ・ヴァレンティン・ライリーと、フランスの植物学者ジュール・エミール・プランションらの研究グループが解決方法を発見しました。それはアメリカ原産のブドウ樹を台木として使いヨーロッパのブドウの穂木を接ぎ木するというものでした。この方法は功を奏し、長年ヨーロッパのブドウ農家を悩ませてきたフィロキセラの被害は沈静化していきました。

今では一部の地域を除き世界中でフィロキセラ耐性のある台木が用いられるようになっています。さらにその台木も、数多くの種類の中からそれぞれの土地にあったものを選んで使用できるようになっています。たとえば、肥沃な土壌であれば水分や養分の吸収性がやや低い台木が適しているし、白亜質土壌であればアルカリ耐性のある台木が好ましい、などです。

台木に使われるブドウの種

台木に使われる品種の説明をする前に、ブドウの種の概要を確認しておきましょう。

生物学上の私たちは、学名を「ホモ・サピエンス」というのは皆さんも聞いたことがあるのではないでしょうか。
「ヒト科」「ヒト属」のヒトという種に属していて、「ヒト属」がホモ、種としてのヒトをサピエンスといっています。

では、ワインの原料であるブドウはどうでしょうか?

例えばピノ・ノワールというブドウ品種。
「ブドウ科」「ブドウ属」のヴィニフェラ、という種に属しています。

「ブドウ属」をヴィティス、といい、「ブドウ属のヴィニフェラ」を「ヴィティス・ヴィニフェラ」、といいます。

「ヴィニフェラ」という言葉には「ワインを造る」という意味があります。
現在世界中でワイン造りに使われているブドウの大半が、この「ヴィティス・ヴィニフェラ」に属しています。

ヴィニフェラ種は、ヨーロッパや中東が原産で、全部で1000種類以上あるといわれていますが、
代表例としては、黒ブドウのピノ・ノワールカベルネ・ソーヴィニヨン
白ブドウのシャルドネリースリングなどがあげられます。

ヴィニフェラ種はワイン醸造に最も適しているといわれますが、ブドウの害虫であるフィロキセラにほとんど耐性がありません
そのため19世紀後半にフィロキセラがヨーロッパに蔓延した時には、壊滅的な被害を受けました。

では「ブドウ科ブドウ属(ヴィティス)」に分類されているヴィニフェラ以外の種も見てみましょう。

  • ヴィティス・ラブルスカ


ラブルスカ種北米原産で、湿った気候に適応しており病気にも強い、という特徴があります。

ラブルスカ種の代表的な品種は、コンコード
ブドウジュースにもよく使われていますが、ワインも造られていて、ほとんどが甘口の味わいです。
コンコードは日本のワイン用黒ブドウ品種としては生産量第二位、そのほとんどが長野県で栽培されています。

さて、コンコードを始めとするラブルスカ種から造ったワインからは、フォキシー・フレーバーという独特の香りがします。
これはブドウジュースのような甘い香りで、アントラニル酸メチルと呼ばれる化学物質に由来しています。

ヴィニフェラ種のワインからは感じられない香りで、ヨーロッパなどの伝統国ではあまり好まれません。

  • ヴィティス・リパリア」
  • 「ヴィティス・ルペストリス」
  • 「ヴィティス・ベルランディエリ」

これらは北米原産のブドウで、フィロキセラ対策の台木に適した「3大台木品種」として知られています。3つにはそれぞれ特徴があるので、これらの品種を交雑して、土地にあう台木が作り出されています。

ちなみに、交雑交配はよく似た言葉ですが意味が異なります。

リパリア種とルペストリス種のように違う種同士を掛け合わせることを「交雑」、ヴィティス・ヴィニフェラ種同士のように、同じ種同士を掛け合わせることを「交配」といいます。
たとえばリースリングとシャルドネはいずれもヴィニフェラ種ですが、これらを掛け合わせることを「交配」といいます。

まとめ

今日はブドウの病害、フィロキセラと接ぎ木ついて解説しました。

ここで生徒さんの質問をもう一度おさらいしてみましょう!

これからも様々な角度からワインの疑問にお答えしていくので、どうぞお楽しみに!

VINOTERASのYouTubeチャンネルでは、この記事をより詳しく解説した動画を投稿しています。是非チェックしてみてください!

▼先生、質問です!の動画はこちらから▼

参考文献

(一社)日本ソムリエ協会 教本2023

ヴィノテラス ワインスクール ソムリエ・ワインエキスパート試験対策 2023 Vol.1,2

『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』デイヴィット・バード著、佐藤圭史/村松静枝/伊藤伸子訳、株式会社エクスナレッジ、2022年

『Understanding wines: Explaining style and quality』Wine & Spirit Education Trust

WINE REPORT https://www.winereport.jp/

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