ソムリエ・ワインエキスパート試験対策の疑問にお答え!
この記事では、ヴィノテラスワインスクール ソムリエ・ワインエキスパート一次試験対策講座の授業で受講生の皆さまから実際に出た質問に、アシスタント講師のマイ先生がお答えします!
目次
◆ はじめに
◆ ヨーロッパの生産者編 ~写真でめぐる様々な樽~
◆ 日本の生産者編 ~樽発酵、トースト~
◆ まとめ
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はじめに
前回の記事では、樽(オーク樽)の種類や、ワインに与える影響について解説しました。今回は、世界中のワイン産地で実際どんな樽が使われているのか、写真でめぐってみましょう!また実際に白ワインを“樽発酵”中のワイナリーに伺ったので、その模様をレポートします!
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ヨーロッパの生産者編 ~写真でめぐる様々な樽~
ワインインポーター・アズマコーポレーションさんの最新カタログから、貯蔵容器の様子がわかる写真をお借りすることができました!
今回はその中から、フランスとイタリアの生産者について一緒に見ていきましょう。
◆ フランス・ブルゴーニュ ~オーク樽~
ブルゴーニュのワイナリーの写真では、倉庫の中に樽がたくさん並んだ様子がよく映りこんでいます。ブルゴーニュから、まずは2つの生産者を取り上げます。
1軒目はペルナン・ヴェルジュレスの生産者、ドメーヌ・ロラン・ペール・エ・フィス。
現在の当主は写真にも写っている4代目のシモン・ロランさんです。農薬や化学肥料の使用をできるだけ避けた栽培、野生酵母を使った醸造など、テロワールの表現にこだわっています。
ドメーヌ・ロラン・ペール・エ・フィス/
ペルナン・ヴェルジュレス・ブラン・レ・クルー
https://vnts.shop/SHOP/104924.html
☆ 10カ月樽熟成(新樽比率15%)
ドメーヌ・ロラン・ペール・エ・フィス/
ペルナン・ヴェルジュレス・プルミエ・クリュ・スー・フレティーユ・ブラン
☆ ステンレスタンクで野生酵母にて発酵後、アリエ産オークにて熟成(新樽比率30%)
はじめのワインがACペルナン・ヴェルジュレス、その次がACペルナン・ヴェルジュレス・プルミエ・クリュ、後者の方が価格も高くなっています。そしてプルミエ・クリュの方が新樽比率の割合も上がっています。
新樽は、酸素透過性が高い=古樽に比べ酸化が進みやすく、樽自体の風味も強いため、ワインに大きな影響を与えます。
ワインもその影響に耐えうる品質を持つ必要があるため、より上級キュヴェのワインに新樽があてがわれることが多くなります。
2軒目は、オート・コート・ド・ニュイの南側にあるマレ・レ・フュセ村の生産者、ドメーヌ・ギィ・シモン・エ・フィス。
オート・コート・ド・ニュイは、コート・ド・ニュイの丘の向こう(西側)にあるより標高の高い丘陵地のエリア。「密度がありながらもエレガント」というコート・ド・ニュイのキャラクターを体現するようなワイン造りを標榜する生産者です。
ドメーヌ・ギィ・シモン・エ・フィス/
ブルゴーニュ・オート・コート・ド・ニュイ フュ・ド・シェーヌ
☆「フュ・ド・シェーヌ」=「オーク樽」の意味。フュ(Fûts)=Barrel、シェーヌ(Chêne)=Oak
このワイン以外にも、「フュ・ド・シェーヌ」とついた名前のワインを見かけることがあるかもしれませんが、オーク樽を使って熟成したワイン、という意味であることがほとんどです。
こちらのワインは2/3を古樽で、1/3を新樽で約2年間熟成。樽のニュアンスを心地よく感じる赤ワインに仕上げています。
ちなみによく「樽のニュアンス」といいますが、これは何のことなのでしょう?
香りに関して言えば、木樽熟成由来の香りであるヴァニラやロースト、クローヴ、ナツメグなどの甘い香り。
味わいでは、香りと同様の甘味や、樽からしみ出すタンニンの渋みなどを指して「樽のニュアンス」と総称しています。
◆ フランス・ボージョレー ~ステンレスタンク、セメントタンク、オーク樽~
シャトー・ド・ベル・アヴニールは、ボージョレー北部、サン・タムール村と接するラ・シャペル・ド・ガンシャイに本拠地を構える生産者。 「ワインはバランス、ピュア、複雑さ、ハーモニーが大切」という信念を元に、有機栽培や自然酵母を用いた発酵、SO2の添加を最小限に抑え、軽くフィルターをかけて瓶詰めといった自然なワイン造りを行っています。
ここでワインを造っている佐藤陽子さん。醸造場の床は佐藤さんによって常にピカピカに磨かれています!
清潔なワイナリーの中にはタンクが整然と並んでいます。左側の銀色のものはイノックスタンク、赤いのはコンクリートタンクです。イノックスはステンレスと同じ意味の言葉です。
発酵槽はイノックス、コンクリート、そしてファイバー(強化プラスチック製のタンク)を使い分けており、熟成に使う樽はアリエ産、リムーザン産の古樽です。
このように、発酵はステンレスタンクなどを用い、熟成に樽を使用するのが世界中のワイン造りの主流です。理由は樽での発酵は管理が難しく、ステンレスタンクでの発酵は温度管理などがしやすいためです。
シャトー・ド・ベル・アヴニールで佐藤さんが手掛けるワインは、今後ご購入が可能になりますのでお楽しみに!
◆ イタリア・ピエモンテ ~オークの大樽~
イタリア北部、ピエモンテ州でバローロの産地としてしられるモンフォルテ・ダルバ村に居を構える生産者、カシーナ・グラモレーレ。写真に写っているのは2代目当主のクローディオさんです。
写真の左側、はしごの後ろに大きな樽が見えますね。クローディオさんの大きさと比べると、背丈以上の高さがあるのがわかります。バローロでは伝統的に大樽での熟成が行われているのです。 この生産者が作るバローロは、“ボッテ”と呼ばれる3000リットルの大樽で18カ月熟成させ、その後にセメントタンクでさらに18カ月熟成させてから、ノンフィルターで瓶詰めしています。
カシーナ・グラモレーレ/
バローロ
◆ イタリア・トスカーナ ~こちらもオークの大樽~
イタリア中部、トスカーナ州の生産者アジェンダ・カサーレ・ダヴィッディ。モンテプルチアーノのヴァリアノ村にあるワイナリーで、創業家の家系では1300年代からワインを造っていたという老舗です。
この生産者が作るヴィノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノは、最良のサンジョヴェーゼ(プルニョーロ・ジェンティーレ)を主体に造られ、スラヴォニアオークの大樽で25カ月にもわたって熟成しています。D.O.C.G.の特徴である優美でエレガントな個性が表現されたワインです。
アジェンダ・カサーレ・ダヴィッディ/
ヴィノ・ノービレ・ディ・モンテプルチアーノ
大樽は、小さい樽に比べて樽の影響がワインに出にくくなることは、以前の記事でご紹介しました。ワインの繊細な個性を生かしながら、ゆっくりとした熟成で複雑な香りや味わいを生み出すことができます。
大樽で熟成されたワイン、どんな味がするのかぜひ一度試してみてくださいね。
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日本の生産者編 ~樽発酵、トースト~
今度は日本のワイナリーを見てみましょう。
山梨県甲州市塩山にある「奥野田ワイナリー」で、ワイナリー代表の中村さんから最新の樽事情についてお話を聞くことができました!
◆ バレル・ファーメンテーション(樽発酵)について
ワイナリーにお邪魔したのは9月の半ば。セラーの中では、8月末に収穫したシャルドネをバレル・ファーメンテーション(樽発酵)している最中でした。
このシャルドネは奥野田ワイナリーの自社畑(桜沢圃場、長門原圃場)で収穫されたもので、樽発酵したワインは「桜沢シャルドネ」というプレミアム・キュヴェとしてリリースされます。
奥野田ワイナリー/
桜沢シャルドネ
※2018年は完売、次回発売を楽しみに待ちましょう!
収穫されたシャルドネは、除梗、搾汁後、225リットルのバリックに分注していきます。
小さい樽にわけると発酵管理が樽の数だけ増えてしまい非常に手がかかる方法となりますが小さいワイナリーだからこそできる丁寧なワイン造りと言えます。
この樽発酵は、手間がかかるため、近年は積極的に行われなくなってきています。
世界の主流は、発酵はステンレススチールタンクで行い、出来上がったワインを樽にいれて熟成させるという、合理的な手法です。
しかしながら、果汁を樽の中で発酵させると、ステンレススチールタンクなどの中で発酵したワインを樽で熟成するのに比べて、樽の香りの付き方が非常に柔らかく穏やかになります。
見学させていいただいたときには、4つの美しい新樽の中で発酵が進行しており、発酵栓(樽の上部から出ているガラスの管)のなかでポコポコと気泡が沸き上がっていました!発酵栓の先についている赤いフタを取ると、発酵が進行している最中の香りがします。香りをかぐときには、栓の真上に鼻を持っていくと危ないですよ!手で仰いで香りを感じてくださいね!と中村さんから注意がありました。化学の実験で薬品の匂いを嗅ぐときの作法を思い出します。
このときのアルコール度数は5%くらい。できあがりは12%程度まで上がるのでまだまだ途上です。香りはシャルドネのワインというよりは、まるでパン生地が発酵しているかのようなイースト香が支配的です。
樽発酵のリアルな姿を五感で感じることができました。
◆ トースティングの最新事情!
今回使っているのは、中村さんお気に入りという、フランスの樽メーカー・エクラ社の新樽です。樽ひとつ、おいくらなのか伺いましたが、一般的な新樽の価格よりもかなり高いように感じました。それもそのはずで、この樽にはある技術が使われていたのです。
伝統的には、樽の内側は炎でトーストします(ファイヤートースト)。トーストの度合いによって、樽がワインに与える影響が変わることは、前回の記事でご紹介しました。炎で内側を焦がした樽で熟成したワインは、チョコレートやコーヒーの香りをまといます。そしてそんなワインは、グリルした肉の焦げや濃いソースと抜群の相性をみせます。
一方、世界中の都市部では和食のレストランが流行しています。和食レストランで提供される料理は、出汁をベースにしたデリケートなソースを使っているので、炎で焦がした樽を使った力強いワインだと、ちょっとミスマッチになってしまいますよね。例えばその和食レストランで、フランスの樽工房の職人さんたちが食事をしたとします……
「なるほど、今はこういう食事がはやっているんだね!」
「いつも俺たちがやっているファイヤートーストだと、ちょっと火の温度が高すぎるかもしれないなぁ」
こんな会話が繰り広げられているかもしれません。このように、食の流行から、樽の作りも変化しているのだそうです。
今回シャルドネの樽熟成に使っている新樽は、そんな食の変化にあわせて進化した2通りのトースティングが施されています。
FUZION
炎とスチームのハイブリッド。スチームが入ることにより、炎の温度を下げて樽の内側をトーストします。この手法により、樽の内側が焦げすぎず、低い温度で深くまで焼くことができます。ワインの熟成具合が大変繊細になります。
HYDRO
遠赤外線で樽の内側をトースト。電磁波により、炎よりも深いところまで熱が入るが、熱の温度自体は低いため、焼きすぎないトーストになります。こちらもデリケートな味わいのワインが仕上がります。
このようなトースティングを施した樽で熟成したワインが、
「塩こうじソースに樽の香りがあってきたね♪」
こんな会話をしながら飲まれるようになる・・・これが最新の樽事情です。こういった樽の使い方のチャレンジは、奥野田ワイナリーさんのような比較的小規模なワイナリーならでは!
こういう取り組みが周りのワイナリーにどんどん波及していくんです、と中村さんがお話ししてくださいました。
中村さん、奥野田ワイナリーの皆さま、ありがとうございました!
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まとめ
樽についての一般論は試験勉強で学びますが、実際の使われ方は生産者によって千差万別。今回の記事ではその片鱗を少しでも感じていただけたと思います!
ぜひワインのテクニカルデータ、ワインショップのPOP、インポーターさんのホームページなど・・・樽についての情報をご自分でもキャッチしてみてください!樽の使い方によって、実際のワインにはどんなキャラクターが備わっているのか?どんなお料理と相性がいいのか?・・・などなど、考えながら楽しむヒントにしていただければ幸いです!
これからも様々な角度からワインの疑問にお答えしていくので、どうぞお楽しみに!
参考文献・参考サイト
AZUMA 2024 WINE CATALOG(アズマコーポレーション)
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Special Thanks!!
奥野田ワイナリー(山梨県甲州市塩山牛奥2529-3)
VINOTERASのYouTubeチャンネルでは、この記事をより詳しく解説した動画を投稿しています。是非チェックしてみてください!
▼先生、質問です!の動画はこちらから▼
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