ソムリエ・ワインエキスパート試験対策の疑問にお答え!
この記事では、ヴィノテラスワインスクール ソムリエ・ワインエキスパート一次試験対策講座の授業で受講生の皆さまから実際に出た質問に、アシスタント講師のマイ先生がお答えします!

目次
◆ はじめに
◆ 「樽」とは?
◆ 「樽」のいろいろ
◆ 「樽」VS「○○」
◆ まとめ

はじめに

「樽熟成」や、「樽香」……。
ワインの世界に触れれば、この「樽」という言葉に必ず出会うことになります。
樽の起源は紀元前2500年ともいわれ、人間と共に長い歴史を歩んでいます。
元々は単なる容器だった樽ですが、中に入れたワインによい影響を及ぼすことがわかってきて、人々は樽を積極的に活用するようになりました。
樽についての考え方は、生産者によってさまざま。
この記事では、いろいろな樽とそれらがワインに与える影響や、樽と他の容器との違いについて解説します!
「樽」とは?

◆ 樽の歴史
樽は、ワインを造るときに使う木製の容器の総称です。
多くは貯蔵(熟成)の際に使いますが、発酵容器として使う場合もあります。
樽に似た容器に桶がありますが、木製の容器であることは同じ。上部を解放した状態で使うのが桶です。木桶は、高級赤ワインの醸造に使われることがあります。
始めは単なるワインの入れ物だった樽。
しかし、樽に入れておくとなんだかワインが美味しくなっていることに、人々は気づき始めました。
紀元前2500年頃に登場したとされる樽は、ローマ帝国の全盛期には製造方法が確立して生産量も安定しました。以来2000年の長きにわたって、樽はワイン造りに使われる容器の主役であり続けたのです。
近年は、温度管理や衛生管理の簡便さからステンレスタンクが主流になってきています。
他には昔ながらのアンフォラや、コンクリートタンクなどがワインの醸造・熟成容器に使われています。
また樽はワインのみならず、ウイスキーやブランデーといった蒸留酒の保存・熟成にもつかわれてきました。特にウイスキーなどの「茶色いお酒」の色は樽熟成に由来するもので、切っても切れない関係にあります。
樽の利点
樽を使う利点は大きく2つ挙げられます。
① 輸送にすぐれた形状
世界的に使われるオーク樽の容量は225~230ℓ程度。中に液体を満たせば300㎏の重さにもなりますが、胴体の真ん中が丸みを帯びた樽の形は、ごろごろところがして移動することができ、輸送に優れた形状をしています。
② ワインの品質に与える影響
木目や樽の栓の隙間から酸素が流れ込み、ワインがわずかに酸素とふれあうことで、荒々しいタンニンがやわらげられワインの味わいがやわらか・しなやかになります。
また酸素の働きによって、ワインの中のタンニン(渋み成分)とアントシアニン(色素成分)が結びつき、ワインの色調が安定します。
わずかな酸素とのふれあいは酵母や乳酸菌などの微生物に影響を与え、ワインの味わいを複雑にしていくという効果もあります。
さらにワインに樽からのタンニンやココナッツ香などの風味が加わって、深みのある味わいになるといわれています。
樽熟成中はワインが少しずつ蒸発していきますが、そのままにしていると酸素に触れる面積が増えて、酸化が進みすぎてしまいます。そこで、目減りした分を補填する補酒(ウイヤージュ)という作業を定期的に行います。
補酒に使うのは熟成しているのと同じワインですが、とある日本のワイナリーでは熟成前に同じワインを一升瓶に取り分けておき、それを使って補酒をしていくそうです。
「樽」のいろいろ

ここまで、樽がワインに与える影響についてご説明してきました。
しかしこれらの効果は、樽の材質や大きさ、何度使った樽なのか(新樽/古樽)、トーストの度合い、そして樽に入れておく期間など、様々な要因によって変化します。
一般的に樽が小さいほど、新しいほど、トーストの度合いが弱いほど、そして樽にワインをいれておく期間が長いほど、樽がワインに与える影響は強くなります。
それぞれの要因について、詳しくみていきましょう!
木の種類
● オーク
樽に使われる最も代表的な木材で、ブナ科コナラ属(=Quercus ケルカス)のうち落葉樹であるナラ(楢)の総称です。
密度が高く丈夫な木材であるため、輸送に耐える強度を持っていたことから、樽材に多く使われるようになったと考えられています。
オークは、主にヨーロピアン・オークとアメリカン・オークの2つに大別されます。
ヨーロピアン・オーク
☆ セシル・オーク(学名 Quercus petraea ケルカス・ペトラエア)
☆ ペドンキュラータ・オーク(学名 Quercus robur ケルカス・ロブール)
ヨーロピアン・オークは、その名の通りヨーロッパに多く自生しています。
ヨーロッパの中で最大のオークの森を有しているのはフランスで、幅広い樽材を産出しています。
特にセシル・オーク(ケルカス・ペトラエア)はキメが細かく風味成分も豊富であることから高い評価を受けており、トロンセ、ヌヴェール、アリエ、ヴォージュといったフランスを代表するほとんどの森林に分布しています。
フランスの中でリムーザンの森にはペドンキュラータ・オーク(ケルカス・ロブール)だけが自生しています。リムーザンの森で育ったケルカス・ロブール種はキメが粗く風味成分が少なく、主にコニャックの熟成に用いられています。
「スラヴォニアン・オーク」として有名な、クロアチア東部のスラヴォニア産のオークもケルカス・ロブール種です。
ヨーロッパではほかにもハンガリーやルーマニア、ポーランドなどでもオークが自生しており、樽材として加工されています。
アメリカン・オーク
☆ アメリカン・ホワイト・オーク(学名 Quercus alba ケルカス・アルバ)
北米の中でも東部に多く自生しています。ケルカス・ペトラエア種に比べて、ヴァニリンという物質に由来するヴァニラ香や、オークラクトンという物質に由来するココナッツ香が豊富です。
また樽からのタンニンの影響は少なめになります。
アメリカン・ホワイト・オークはアメリカン・ウイスキーの熟成にも使われ、独特の甘い香りのもとになっています。
他にも栗、ブナ、チェリー、ニセアカシア、クルミ、マホガニーなどの木材が樽材に使われることがあります。
樽の大きさ
樽が小さいほど、ワインに与える影響は大きくなります。樽内のワインの容量に対して、ワインが樽に触れる表面積の割合が多くなるからです。
世界のワイン産地で様々な大きさの樽が使われていますが、ここでは代表的なものを取り上げます。
● 小さいサイズの樽

Barrique(バリック):225ℓ
ボルドーで使われます。225ℓを750mℓ(ワインのボトル1本分)で割ると、ちょうど300本分になります。Tonneau(トノー)はバリック4本分=ボトル1,200本=100ケース分の容量を表し、国際的なワインの取引に使われてきた単位です。
大きさは、高さ=950mm 直径=700mm程度です。
Pièce(ピエス):228ℓ
ブルゴーニュで使われる樽です。バリックはやや細身ですが、こちらのピエスはそれに比べて寸胴な形をしています。
● 大きいサイズの樽
Fuder(フーダー):1000ℓ
ドイツで使われる大きな樽です。大きな樽の方が樽からの影響は少なくなるのでしたよね。ワインの繊細な味わいを損ねないようにする狙いがあります。
大きな樽でゆっくりと酸素に触れさせて酸味をまろやかにしたり、天然酵母の働きを促して味わいを複雑にしたりする働きがあります。
新樽/古樽
新樽(しんだる)とは、まだ一度もワインを入れたことのない樽のことです。
古樽(ふるだる)とは、一度でもワインを入れたことのある樽のこと、2度目以降に使う樽を指します。
新樽の方が酸素透過率は高いため、酸化・熟成がより促進されることになります。
また樽から抽出されるタンニンやココナッツ香、ヴァニラ香なども、新樽の時が最も強くなります。そのため、新樽は中に入れるワインもその強い影響にバランスを取ることのできる高品質なワインであることが求められます。また新樽は価格も高いので、熟成されるワインはその分のコストが上乗せされることから当然高価格になります。
トーストの度合い

樽を造るためには、まず森から木を伐採してきます。
切り出されてすぐの木はまだ水分を多く含んでいて、渋みの元になるタンニンなども多く含まれているので、樽に使うような細長い形に加工してから自然乾燥させます。その期間は2~3年に及びます。
急激に乾かすとひびわれなどの原因になってしまいますし、またこの期間に木材に含まれる余計な成分が溶けだしたり、木の成分が分解されてヴァニラ香やココナッツ香の元になる成分が増えたりして、樽材にふさわしい品質を備えていきます。
この自然乾燥の工程をseasoning(シーズニング)と呼びます。
シーズニングを経た木材をいよいよ樽として組み上げていきます。

さて、樽の形と言えば、冒頭でもお話ししたような輸送に適した丸みを帯びたあの形です。まっすぐの木に丸みをつけるためには、熱を加えていきます。
この工程がtoasting(トースティング)で、この時にどの程度熱するか、焼き入れをするかによって、「ライト・トースト」「ミディアム・トースト」「ヘヴィー・トースト」のように呼ばれます。
ヘヴィー・トーストでは、樽材の表面は黒こげの状態になっています。
トーストによって、Eugenol(オイゲノール)というクローヴやナツメグの香りを持つ化合物が生まれます。
トーストの度合いが軽い(ライト・トースト)の方が、樽からワインへのタンニンの抽出が多くなります。
トーストの度合いが強い(ヘヴィー・トースト)と、木材が焦げたことによって煙やコーヒー、カラメルなどのロースト香が強くなります。
以上のように、樽のさまざまな性質がワインに影響を与えています。
生産者は目指すワインにあわせて、どのような樽を使うか、あるいは使わないのかを取捨選択しているんですね。
「樽」VS「○○」
ワインの発酵・貯蔵に用いられる容器は樽だけではありません。
また樽に近い効果をもたらすアイテムもあります。
「樽」VS「ステンレスタンク」

ステンレスタンク(ステンレススティールタンク)は、20世紀前半にアメリカ・カリフォルニア州で開発されました。
ステンレスタンクと樽の決定的な違い、それは温度コントロールの装置がついていたことです。これによって、世界中のどこでも同じ温度条件を再現できるようになり、安定した醸造が行えるようになりました。
木製の容器に比べて殺菌・清掃がしやすく衛生管理が容易であることも、ワイナリーの現場で歓迎されるポイントだったといえます。
ステンレスタンクは酸素を通さない=酸化しないので、ワインのフレッシュさを損なわずに貯蔵することができます。また余計な風味がワインにつくこともありません。アロマティック品種で造る白ワインなど、フレッシュな味わいを表現したいワインには最適です。
そしてステンレスは錆びに強く長期にわたって使うことができるため、経済的であることも大きなメリットです。
「樽」VS「オークチップ」

オークチップ(Oak chip)とは、その名の通りオークのチップ=木片です。
オークステイヴ(Oak stave)も同様の効果を狙ったもので、Stave=板を意味します。
出来上がったワインに木片を浸すことによって風味をつけ、樽熟成をしたワインのような味わいを再現しようというアイテムです。
実際樽を購入するのはコストもかかりますし、樽材のために木材を伐採することは地球環境にとって負荷のかかることとも考えることができます。オークチップには経済的・環境的なメリットがあるといえるでしょう。
実際にオークチップの使用は広く行われており、2006年にはEU域内でのワイン生産にオークチップの使用が認められています。
日本でも、2018年に改正された酒税法で果実酒にオークチップを浸漬して、香味を得ることが認められました。
もちろん樽熟成の効果である穏やかな酸化や、酸素との接触により微生物が働きより複雑な味わいに変化していく効果は見込めませんが、簡単に邪道なものと考えてしまうのは早計です。
まとめ
今回はワインの発酵、貯蔵に使う容器「樽」について解説しました。
様々な種類の樽があり、様々な効果がありましたね!
これらを知ってからいろんな生産者の樽の使い方について見てみると、たくさんの発見があると思います。
ではもう一度、生徒さんからの質問をおさらいします!

これからも様々な角度からワインの疑問にお答えしていくので、どうぞお楽しみに!
VINOTERASのYouTubeチャンネルでは、この記事をより詳しく解説した動画を投稿しています。是非チェックしてみてください!
▼先生、質問です!の動画はこちらから▼



参考文献・参考サイト
(一社)日本ソムリエ協会 教本2023
ヴィノテラス ワインスクール ソムリエ・ワインエキスパート試験対策 2023 Vol.1
『ウイスキーコニサー資格認定試験教本2018上』土屋守著、ウイスキー文化研究所、2018年
『イギリス王立化学会の科学者が教えるワイン学入門』デイヴィット・バード著、佐藤圭史/村松静枝/伊藤伸子訳、株式会社エクスナレッジ、2022年

